つげ義春のマンガのなかには夢を題材にしたシュールな作品や、
私小説的な作品もあるが、氏は旅行、それも世間からは忘れ去られたような
ひなびた所に出かけるのが好きなようで、
そういった自身の体験を題材にしたマンガもいくつかある。
そんな旅好きなつげ義春のタイトル通りのリッチではない旅行記である。
1作目は若き日のつげ氏が九州を旅する話で映画にもなった『蒸発旅日記』。
つげ氏のファンである離婚暦を持つ看護婦との出会いを目指して、九州へ赴きあわよくば
結婚しようと考えて旅立つのだが、途中で不安になったり列車の中の女性に
軽い恋心をもったりと映画化されただけあってエンターテイメントとしてもたのしめる。
この時のつげ氏は著書のなかでも書いているが、
自分自身でも信じられないような大胆な行動をとっており、
それ故にこの著書の他の作品に比べてドラマチックな展開になっている。
親子3人での旅行記も数篇あり、マンガ家としての収入が乏しく、
自身の心身不調もあり貧困旅行にふさわしく近場での旅行記になっている。
自身が子供のころに継父からつらい思いを受けさせられてきたためか、
家族旅行のなかでは自分の子供への接し方に愛情を窺い知ることが出来る。
つげ氏は旅に出て自分の価値観にあった場所に出会えば、
ここに住んでみようか、住めばどういう暮らしになるのかと空想しながら旅をしている。
旅とは日常からの現実逃避の側面もあるが、旅先での場所に棲みつけば
またそこから新たな日常がはじまるわけで、その生活にも嫌気がさしてくれば
また旅をはじめるのだろう。
お金をかけない(お金が無い?)旅行であるがために旅先での人間関係も含め、
金銭では隠れてしまっているものが表れてきて、様々な体験が出来ている。
これを読むとお金をかけない旅行はある種の冒険旅行であると思えてくる。
昭和40年代から50年代の旅行記としてのノスタルジック感があり
貧困という言葉にまとわりつく切なげな感じもあり、
つげ義春の世界を満喫できる1冊であった。
『貧困旅行記』 つげ義春
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